韓中両首脳は国交樹立から21年の実績を踏まえて「韓中未来ビジョン共同声明」とそれに付随する「戦略的パートナーシップ関係の具体化履行計画」と題する詳細な文書を発表した。朴槿恵大統領は就任4カ月で、5月初旬の韓米首脳会談による「韓米同盟60周年記念共同宣言」に続き、韓半島問題に密接にかかわる世界2強との絆をしっかり固めたことになる。朴槿恵外交の意味するものを本紙記者が語り合った。
■□
なぜ、中国が先なのか
対北連携の絶好機…「慣例」より合理性優先
A 日本ではこの間、「米国の次になぜ日本ではなく中国なのか」、「朴槿恵氏は歴代大統領の慣例を破った」などとひとしきり言挙げされた。
B 昨年末からこの春にかけて、日本(安倍晋三首相)、韓国(朴槿恵大統領)、中国(習近平国家主席)の順で政権トップが交代し、米国ではオバマ大統領が2期目に入った。米国は日、韓、中と、韓国は米、中と、中国は米、韓とそれぞれ首脳会談をもった。この4カ国の中で日本だけが米国のみで、韓国、中国との首脳会談はまだ目処もたっていない。
C 韓国と日本、そして米国は、自由や民主主義、市場経済主義など多くの価値観を共有する。この3国の結束があってこそ、民主化運動を弾圧し、軍事力と海洋権益の拡大に走って周辺国に脅威を与える一党独裁の中国と対抗でき、東北アジアの安定を保障できる。なのに、韓国は日本より中国を重視するのか、という論理だ。
A 中国との交易規模が米日の合計より多いとか、歴史認識でも協調する立場にあるとか、そういう事情もあって、このままだと韓国は中国に取り込まれるのではないか。そんな苛立ちがある。
B 朴大統領は中国語に堪能だ。馮友蘭の『中国哲学史』にも傾倒するなど大変な中国通でもある。そういうことも背景にあるようだ。
C 菅義偉官房長官は記者会見(6月27日)で、「第1次安倍内閣のとき、安倍首相は米国より先に中国を訪問した経緯がある」と述べ、自国にも慣例に基づかない例があったことを指摘した。そのうえで、「各国が戦略的に外交を推進するのはいいこと」だと懸念に釘を刺していた。
A 飯島勲内閣官房参与が平壌に電撃訪問(5月14日)した。日本は韓国や米国にも事前連絡をしていなかったらしい。北韓の核兵器放棄に向けて韓米日の連携強化を言いながら、拉致問題を解決するためならば、その連携を綻ばせる可能性を見せたことになる。安倍政権もいわば「戦略的外交」をしたわけで、菅発言はそれを意識したものだろう。
B それにしても、日本の各メディアは型通りのうがった見方をし過ぎる。朴大統領が歴史認識問題で日本を批判し、日本より先に中国を訪問したのは、アボジの朴正熙大統領が「親日」だったのでそのイメージを払拭するためだ、といった論評が目立った。右派系だけではなかったね。
C 先代は「親日」でも「反日」でもなく、合理的な判断をする大統領だった。現大統領も信念の人だ。そうでなければとうに政界から消えている。右顧左眄(うこさべん)しなければ生きがたいほどの激動期を、筋を通して生きてきたことに目を向けるべきだ。その種のものに迎合して自ら選択肢を狭めるタイプではない。
B そもそも、現在の韓国で国益を度外視して「反日」にこだわるのは少数だ。
正面と背後固め
A 中国牽制に神経を使うあまり、日本は韓国の国益や朴槿恵外交の本質が見えていない。北韓に核開発を放棄させ、韓半島の安定を確保し、平和的で民主的な統一への基盤をつくる。これが「韓半島信頼プロセス」構想を掲げる朴大統領の基本姿勢だ。米中との連携強化を優先するのは当然だろう。
B 訪米に次ぐ訪中は朴槿恵外交の目的を明確に示した。同盟60周年になる米国との関係強化を平壌に対する正面固めとすれば、中国とのそれは背後管理だ。韓日関係が良好に推移していたとしても、訪中が先行したのは間違いない。「日本外し」という見方は早合点というものだろう。
C 中国は最近になって、北韓との関係を「血で固められた同盟」の国から「普通」の国並みに格下げした。この機会を逃さず、中国との協力関係を一段引き上げ、対北韓政策の共通分母を大きくしたい。朴大統領のこうした思いには強いものがある。当選後、特使を米国より先に中国に派遣したのもその表れだ。
■□
韓中首脳会談の意義
北核封鎖大きな進展…韓国主導統一の受容でも
A 「韓中未来ビジョン共同声明」とそれに付随する「戦略的パートナーシップ関係の具体化履行計画」には、政治・安保をはじめおよそ国と国の関係で必要とされるすべての分野で協力強化が盛り込まれた。高句麗や渤海を中国の地方政権と見なそうとする東北工程、韓国に輸出される食品の安全性や環境悪化、中国漁船による違法操業、脱北者処遇など、首脳会談では扱いにくい問題にも前進があった。
B 韓中関係は交易こそ他を圧倒するほど活発でも、政治的には深まらない「政冷経熱」と言われてきた。それだけに、その限界を抜け出て「政熱経熱」へ質的な成熟化が期待できる内容になったとして高い評価を集めている。
C 92年の国交樹立以来、両国首脳は共同声明を6回、共同発表文を2回出している。国交樹立時の共同声明は6項目約450字に過ぎなかった。今回は付属文書を除いても、5項目・8細部事項あって5100字を超えている。しかも、韓半島問題についての言及が微々たるものだった前例とは異なり、「韓半島」という項目まで設けて多岐に言及した。
A それは、中国側が論議をタブーとしてきた北韓問題について、正面からかなり突っ込んだ話し合いがあったことを裏付ける。韓中間の共通分母が大きくなった証とも言えそうだ。
B 「共同声明」では「北韓の核兵器」とは言わず、「有関(関係を有する)核兵器」という表現になってはいる。しかし、韓国の北韓核を容認しない姿勢に言及したうえで、「両国は(北韓の)核兵器の開発が韓半島を含む東北アジア、世界の平和と安定に深刻な脅威になるとの認識で一致した」とし、「韓半島の非核化に向け共同で取り組んでいく」と結んでいる。
C 「深刻な脅威」とまで踏み込んだ意味は大きい。もちろん、中国の意向で平壌を刺激し過ぎないような配慮は随所にある。それでも、韓半島問題を北韓の立場から論じてきた過去とは大きく異なる。中国の基調はもう変わらないだろう。
後退しない中国
A 北韓の核問題について韓米との連携を重視し、国連による制裁決議の履行も厳格にする方針転換の裏には「党中央外事工作指導小組」による数年来の論議があった。この小組の現トップは総書記でもある習近平国家主席だ。
B 軍部の古参一部にはまだ、北韓を韓米同盟との緩衝地帯とする伝統的な考えが根強いと言われる。しかし、これを時代遅れとする認識が主流になっていた。中国はむしろ、北韓を過剰にかばうことで国内外に派生するリスクに敏感になっている。今回の共同宣言の線からの後退は考えにくい。
C 北韓の核保有が現実味を帯びたことで、中国の尻に火がついた。米国の軍事的関与が強大化されるだけでなく、日本や韓国も生存をかけて軍事的な抜本策を講じかねない。それにとどまらず、北韓の核脅威は直接中国に及ぶ可能性さえ否定できなくなっている。
A 「共同宣言」は「中国側は朴槿恵大統領が主唱した韓半島信頼プロセス構想を歓迎し、南北関係の改善および緊張緩和のために韓国側が傾けてきた努力を高く評価する」と前置きし、「韓民族の念願である韓半島の平和統一実現を支持する」と明記した。韓国主導による統一を公に受容したに等しい。これも、先ほどから話に出ていた「共通分母」の重要な構成要素になる。
B 平壌は歯ぎしりしているだろう。韓中首脳の一連の合意は、核兵器開発を続け軍事挑発をいとわない北韓にとって、事実上の最後通牒のような大変な圧力になると見ていい。
C 頼りにしてきた中国までが核保有を認めない立場を鮮明にしたことで、住民の人権や命など多くを犠牲にしながら、核兵器の開発に国力を注いできた北韓は、この間の先軍政治だけではなく、建国以来の国家路線が根底から揺らぐことになろう。
■□
どうなる東北アジア
3国協調のハードル高い…北韓は撹乱策前面に
A 朴大統領は韓米、韓中首脳会談を成功裏に終えた。だが、「好事魔多し」という言葉もある。韓国との距離が遠のいた、外されたという感覚を持つ日本や、韓米、韓中の結束強化によっていっそう追い詰められた北韓とどう向き合うのか。正念場は続く。
B 「韓中共同宣言」では、歴史問題をめぐって東北アジアで対立と不信が深まる不安定な状態が続いていることに憂慮を表明し、名指しは避けながらも日本を批判した。一方では、韓中日3国の協力がそれぞれの発展と東北アジアの平和と共同繁栄に大変重要な役割を果たしていると評価し、3国による首脳会議の年内開催とその成功のために努力するとした。
A その3国首脳会議はこの5月、ソウルで開催されるはずだったのに、中国の強い意向で無期延期になったものだ。年内実現に言及したのは、それに意欲的な韓国の顔を立てるためだったとされる。
C 菅官房長官は前述の記者会見で、中国とは戦略的互恵関係、韓国とは隣国としての安定的関係を築くために、実務レベルの協議を続けているとも明らかにした。3国とも、相互の関係改善を必要としているとのメッセージを絶やさずに発信している。
A だが、飛び越えねばならないハードルはむしろ、高くなりつつあるのではないか。3国首脳会議の年内実現は、現状では単なる努力目標に過ぎないように思える。
B 確かに。中国は中日首脳会談の開催条件として、日本の国益を損なう条件を持ち出したと安倍晋三首相自らがリークした。報道によれば、尖閣諸島(中国名=釣魚島)に領有権問題があることを認めたうえで棚上げしようということらしい。両国はこれで、さらに動きにくくなった。
C 韓日間も同様だ。朴大統領は国内での発言だけでなく、米国や中国でも日本の歴史認識に苦言を呈している。本気度は相当高いと思う。
A 朴大統領の就任を機に、独島問題でおかしくなっていた韓日関係を修復する動きが停滞したのは、閣僚や超党派議員団によるこれ見よがしの靖国神社参拝と、それに関連した安倍首相発言(「侵略の定義は定まっていない」と過去を合理化)の影響が大きい。
B 韓国メディアの一部は、朴大統領が中国にある抗日闘争遺跡の保存に関する韓中協力を強調したことから、韓中首脳会談を日本の歴史認識を正すための「抗日連携外交」と報じた。必要以上に日本を刺激するフレーズが安易に出るほど日本への不信は強い。
C でも、朴大統領の真意とはかけ離れているのではないか。本気度が高いからと言って、「抗日連携」ということはない。それは、韓国の外交舞台を自ら狭くする。
A 中日の険悪な関係の中で、中国は日本以上に韓国を取り込むことに熱心に見える。北韓リスクを抱える韓国にも、日本より中国を重視しなければならない事情がある。それでも、韓国による日本外しはあり得ない。
B 成長力にかげりの見える韓国経済にとって、確かに北韓リスクはきつい。そうかと言って、韓中関係の今後が必ずしも平坦ではないし、経済面でのチャイナ・リスクも考慮しなければならない。
経済・安保に注力
C 平壌が朴政府の弱体化のために、韓国内の葛藤をあおるなど総力を挙げてくるのも間違いない。閉塞感打破の矛先がそこにしかないからだ。中国との離間策はもちろん、拉致問題を餌に日本をも利用しようとするだろう。政経両面で日本を無視していい状況にはない。
A 朴槿恵外交は「取り込まれる」云々の次元を超えている。そもそも、独自外交の能力がなければ韓国の未来は開けない。二股外交でも中国一辺倒でも、北韓に付け入るスキを与えかねず、関連主要国の信頼を失えば平和統一を主導する資格に疑問符さえ付く。朴大統領は必ず、経済と安保を優先するはずだ。中でも、北韓の核問題解決と南北信頼基盤の造成から焦点を外すことはない。米中日を巻き込んでこの課題を遂行するのが朴槿恵外交だ。
(2013.7.3 民団新聞)