北韓を脱出して命からがらの思いをして日本にたどり着いた元在日北送同胞らの定着に向け、人道的な立場から援助している「脱北者支援民団センター」(代表=呂健二民団中央本部副団長)が、発足から10周年を迎えた。06年の「5・17事態」(総連と通じた河丙中央団長の総連本部訪問と民団・総連5・17共同声明発表)を前後して一時活動を休止させられたこともあった。脱北者に寄せる情愛は、多くの同胞の共感を得ており、脱北者支援民団センターの役割はますます大きくなっている。
入国者2百人
発足は03年6月。すでに日本に戻っていたり、今後日本に入国してくるであろう元在日同胞を中心とした脱北者の苦境をこれ以上、座視できないという自然な情愛と、純粋な人道的立場から出発した。
民団が現在、確認している日本入国脱北者は165人(関東112、関西51、不明2)。ただし、日本政府の発表によれば、実数は200人以上とされる。
脱北者支援民団センターの取り組みは多岐にわたる。
脱北者は着のみ着のままで日本に入国するため、まず、日本で定着するために必要な一時金を支給している。金額は昨年末現在で総額1020万円(102人)に達した。支給を受けた脱北者からは、「あのときは本当に助かった」との声が多く寄せられている。
各種手続きを終え、生活が始まっても、日本生まれでさえ数十年ぶりの日本生活に適応できず、戸惑うことも多いようだ。地下鉄の自動改札はもとより、銀行でのATMの使用方法も未知の体験だ。まして、北韓で生まれた子どもらには生活方法がまったくわからない。脱北者支援民団センターでは必要に応じて指導している。
住居と就職も
住居は保証人がいなければ確保が難しい。脱北者支援民団センターでは、民団の支部が保有しているアパートを保証人や手数料を免除のうえ、家賃も優遇して斡旋している。また、会社を経営している団員の好意で、社員寮の空いている部屋を一時的に無料で提供してもらうこともあった。
このほか、自治体と交渉し、市や区が保有する公共施設などへの入居支援も行ってきた。就職にあたっては、事業を行っている団員に理解を求めたり、日本企業にも紹介している。
高齢ですぐに働けない場合は、生活保護の申請手続きを説明したりすることもある。北韓での飢餓、処刑の恐怖、収容所で拷問を受けたことなどで、不眠症や鬱病など健康を害していれば、韓国語で診察を受けられる病院を斡旋し、健康診断料などを負担している。脱北支援センターと提携している在日韓国人の精神科医は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の割合が全体の3〜4割にのぼるのではと推定している。
交流の場提供
関東と関西地区で半年に1回程度開催している「交流会」は、身分を明かせないために交際範囲を広げられずにいる脱北者にとっては、心身ともに安らげる場となっている。
関東では東京都区内の健康ランドを会場にすることが多い。毎回40、50人が北韓で生まれた家族を伴って参加する。同じ境遇の仲間どうし、日本での生活や北韓の状況などで話が弾む。食事を楽しみ、カラオケでひとときを過ごす。
ある日本人妻は、「一人きり家に閉じこもっていると、向こう(北韓)に残っている子供の安否ばかり考えてしまう。こうしてみんなと会って話すのはうれしい。こういう集まりはちょくちょくやってほしい」と話す。
脱北者支援民団センターでは抽選で参加者全員に日常生活に欠かせない生活必需品を配っている。
脱北者支援民団センターには民団の各級組織、民主平和統一諮問委員、在日韓国商工会議所や在日韓国青年商工会の会員などから多くの誠金が寄せられている。昨年3月までの支援総額は2790万円余りに達した。これからも支援活動の充実のため、さらなる協力を呼びかけている。
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ボランティア拡充を
北朝鮮難民救援基金 加藤理事長語る
北朝鮮難民救援基金(加藤博理事長、東京都文京区)は、国内外に張り巡らした独自のネットワークを駆使して元在日や日本人妻の脱北者を支援しているNPO団体。民団支援センターとはカウンターパートの関係にある加藤理事長は、「民団が帰国運動をしたわけでもないのに、脱北者を受け入れるというのはすごいこと。民団のほうが道徳的に優れているということだ。脱北者にとってなんでも相談できる場所が日本にあるのとないのとでは大違い。総連中央は自分たちがやったことなのに『共和国を脱出した犯罪者』と口汚くののしっている。そこに同胞からの信頼を失う最大のポイントがある。民族の将来を担える団体とはとうてい思えない」と話している。
課題として、脱北者支援民団センターには「もう少しボランティアがいてもいいのでは」との注文もつけた。「脱北者支援民団センターとは緊密に連絡をとっているが、担当者が忙しすぎて気がもめる。ボランティアをたくさん募り、余裕を持って支援事業にあたってほしい」という。
加藤理事長は、脱北者支援のレベルを上げるためには、当事者と民団との人事交流が必要とも強調した。「北韓の実情を知るため、地方の民団本・支部で脱北者自身の話を聞く小規模な懇談会をもっと増やしていってほしい。婦人会との連携にも期待したいところだ」と述べた。
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日本語学び自立へ
若い脱北者のなかには努力して日本語を取得し、自立への道を切り開きつつある例も出てきた。
李ハナさん(仮名)は両親とも在日同胞。北韓から逃れ、今春に関西学院大学を卒業した。脱北者で日本の大学を卒業したのは初めてとされる。
法律事務所で勤務しながら日本語能力試験1級と高校卒業程度認定試験(大検)に合格した。大学はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の推薦入学制度に合格したため、入学金、学費とも免除だった。
同じく、在日同胞を両親に持つキム・ソヒさん(仮名)は今春、関東地区の著名な大病院附属の看護専門学校に入学した。200人近い志願者のなかから選ばれた29人の合格者のうちの1人だ。
都内の夜間中学を1年で卒業。校長先生の推薦で都内の単位制の高校に進み、1年数カ月という短期間で卒業に必要な単位をすべて取得した努力家。北朝鮮難民救援基金がキムさんの後見役となり、入学金と当面の学費を支援した。
北朝鮮難民救援基金の加藤博理事長によれば、大阪市内の韓国系学校に臨時職員として採用されたり、大阪市営交通に保守点検要員として就職した例もある。さらに、自立に向けて自動2輪や普通運転免許を取ったという人はかなり多いという。加藤理事長は、「脱北者の中から有為な人材が育っているのはうれしい。若い人は自立に向けて、これからも必死になって努力してほしい」と話している。
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(2013.8.15 民団新聞)