北韓の政治犯強制収容所をテーマにした3Dアニメ映画「TRUE NORTH(真実の北韓)」(清水ハン栄治監督、日本・インドネシア合作)が1日、第33回東京国際映画祭「ワールドフォーカス」部門で日本初上映された。無実の罪で収監された在日同胞とその家族を主人公に、収容所内での密告制度、公開銃殺の様子、栄養失調状態に陥った際に体に現れるペラグラと呼ばれる症状などを忠実に再現している。日本での上映は来春以降の予定。
作品は6月30日に閉幕したフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭「長編コントルシャン」部門にノミネートされたほか、北米プレミアのナッシュビル映画祭「長編アニメ部門」グランプリ、ワルシャワ国際映画祭では「革新的で野心的な作品」として審査員特別賞を受賞した。東京国際映画祭でも上映終了後、しばらく拍手が鳴りやまなかった。
北送で北に渡った朴一家の話。主人公ヨハンは平壌で生まれ、幸せに暮らしていたが、父が「反逆罪」の疑いで逮捕され、母、妹ともども政治犯強制収容所に送還されてしまう。炭鉱で過酷な労働を強いられ、食事はトウモロコシをすりつぶしたわずかな量のおかゆとレタス2枚入りの「塩スープ」だけ。
収容所内での「在日」差別と食糧をめぐる醜い争いをきっかけに自暴自棄になったヨハンと、死ぬまで気高く人間らしく生きようとした母を対照的に描く。最後、愛する母を失い、ヒューマニズムに目覚めたヨハンは、自らを犠牲にして愛する妹とその婚約者の脱出に賭ける。
制作にあたって清水監督は心理学者の目でアウシュビッツを描いたヴィクトール・フランクルの書籍作品『夜と霧』をリサーチしたという。
「生きるか死ぬかという極限の環境下、人はどう振る舞うのか。子どもの食糧を奪う親もあれば、仲間がおぼれていたら自分を犠牲にしてまで助ける人もいる。自分だったら両方ともあり得る。その振れ幅をどうコントロールするのか、そこが人間のポテンシャルだ。『よりよく生きる』ヒントを提供できればいい」
作品化にあたっては実際に強制収容所に収監された脱北者4人にインタビューするなど、合わせて関係者30人余りと交流を重ねてきた。これらの証言をもとに可能な限り事実に迫ったフィクションとなっている。
清水ハン栄治監督

清水監督は人権問題を中心に映像、出版、教育事業に取り組む在日4世。10年前、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の代表から手渡された脱北者の手記を読んだ。「もしかしたらぼく自身、収容所に生まれていたかもしれない。そう考えると3日間眠れないほどの衝撃」を受けた。
メディアを通じて世界に北韓の人権問題を伝えようと決意。ルポルタージュや実写映画化という選択肢も考えたが、「そのままではホラーにしかならない」。「アニメならば地球の裏側の子どもたちまで届く」と考えた。「NO FENCE(北朝鮮の強制収容所をなくすアクションの会)」の宋允復副代表は脱北者から自ら聴き取りしたエピソードを提供し、制作を後押しした。
テーマ性からしてもとよりスポンサーはつかず、自主制作を余儀なくされた。「赤字は避けたい」と制作の拠点をインドネシアに移し、東南アジアの気鋭の若手アニメーターを起用した。意思疎通はインドネシア語と英語。7年間の滞在中、膨らむ一方の制作費と孤独感から「何回もさじを投げたくなった」という。最終的には川崎市内に一戸建てを買えるくらいの自己資金を費やした。
清水監督は北送同胞を「在日のすごいでかい忘れもの」という。「仲間が北に渡ったのを、だいたいの在日は自分たちで選んだ、天罰だという。あなたはラッキーで、たまたま行かなかっただけではないのか。無実の人たちが生きるか死ぬかの瀬戸際に置かれているのに、ぜんぜんなにもしなくていいのですか」と。
映画には強制収容所に日本人拉致被害者がいたという話も出てくる。こちらは日本の政治家や外務省に向けたメッセージだったが、未だに問い合わせはないという。
■世界中で公開へ資金協力を要請
清水監督の目標は日本ばかりか、世界中の多くの人たちに収容所の存在を知らせること。外国語バ‐ジョンの制作やプロモーション活動へ400万円を目標にクラウドファンディングを呼びかけている。プロジェクトは12月23日まで。応援購入は1700円から。1万5000円でサポーターとしてエンディングロールに名前を刻むことができる。
https://www.makuake.com/project/truenorth
(2020.11.11 民団新聞)