「一社」さん「新組織」を宣言してはいかが?
民団傘下団体からの離脱を策した旧韓商連を民団中央が直轄したのは12年2月。洪采植現会長の下で正常化を果たし直轄を解除したのが同年5月。十分過ぎるほどの時間が経過した。完全正常化に向けて今一度決意を新たにするためにも、民団とは何であり韓商連とは何なのか、そして両者の関係はどういうものだったのか、歴史的な経緯を踏まえ未来を展望しつつ提言したい。
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民団との歴史的な紐帯
結成は二人三脚で
46年に創立された民団と62年に結成された韓商連は、一貫して強固な紐帯関係にあった。そもそも、民団という母体組織なしに韓商連の誕生はなかったと言っていい。
解放直後の在日同胞の最大関心事は、当面の生活基盤の確保であり、その欲求は自ずと自営業に向かった。これを協助する目的で、46年4月「京都朝鮮人商工会」、同年5月「和歌山県朝鮮人商工会」など、各地に商工人団体が設立された。
創団綱領の筆頭にも明記されているように、民団草創期の最重要課題も在日同胞の民生安定であった。民団が「商工業者実態調査」を行っているさなかの50年2月、来日した李承晩大統領の歓迎民衆大会を開催した民団は、商工活動の窮状を訴え、李大統領は200万㌦の融資を約束した。
6・25韓国戦争が勃発したため、この約束はすぐには履行されていない。民団代表団が韓国要路を訪問し、在日同胞商工業者への融資を改めて建議したのが52年11月。政府が200万㌦の融資を承認したのが翌年3月だった。民団中央は各地に受け皿となる協同信用組合の設立を指示する。
同年5月には大阪に「在日韓国人商工会」、高知に「金融協同組合」、6月「宮城協同信用組合」、9月「秋田県韓国人商工協同組合」などが相次いで結成された。だが、設立されても維持自体が難しい時代であり、全国の商工人団体を統合する動きはまだ弱かった。
局面が転換したのは61年5月に「東京韓国人商工会」が設立されてからだ。東京韓商の設立は当初から全国組織の結成を目指すものだった。次のような3大活動目標を打ち出している。
▽各県に地方商工会を結成する(日本8大都市が目標)▽商工会連合体を結成する(全国商工人の総網羅)▽民族陣営3本柱を樹立する(民団・商工会・信用組合の大結合)。
韓国政府から「唯一」と認定
その後、1年足らずで東京、大阪、名古屋、京都、山口、福岡、広島、仙台、秋田の地方韓商が結集し、「在日韓国人商工連合会」結成を迎えるのである。当時、朝鮮総連の勢いには天を突くものがあり、筆舌に尽くせないほどの妨害があった。民団の牽引なくして韓商はなく、ましてや連合体の誕生はなかったのだ。
韓商自らがこう総括する。「地方韓商結成の一大成果は、民団中央本部と県本部の寛大な理解と大きな支援なくしては、可能なものではない。やはり民団は在日同胞の母体であり、組織の力は大きいのである」(東京韓商創立50周年記念誌)。
韓商連結成準備委員会の委員長は当時の権逸民団中央本部団長が担い、結成大会における経過報告も民団が行った。韓商連結成はまさに、民団と韓商が二人三脚で成し遂げたと言える。
同年5月の民団全体大会で、韓商連の傘下団体認定建議案が満場一致で採択されたのは言うまでもない。なお、韓商連は同じ時期に、韓国政府から在日韓国人の唯一の経済人団体として認定を受けている。その後、続々と地方韓商が設立され、名実ともに全国組織としての体制が構築されていった。
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なぜ傘下であるべきか
相互補完の関係強い…「離脱」の先はジリ貧加速
友好団体とは決定的に違う
民団と韓商連には強固に連携してこそ、時代の要求に応えることができるとの認識があった。「一社」(一般社団法人在日韓国商工会議所)が言うところの友好団体と傘下団体の決定的な違いは、組織間の有機的で強固な関係が保証されているか否かにある。
母体組織である民団と傘下団体である韓商連の紐帯を土台に展開された事業は数多い。その典型が民族金融機関の設立・育成だ。かつて39組合を誇り同胞経済の発展に大きな役割を果たした韓信協(在日韓国人信用組合協会)傘下の信組を立ち上げるうえで、民団とタイアップした韓商が中心的な役割を果たしたことを想起すべきだろう。
以下、韓商連がなぜ傘下団体であるべきかを記そう。
1,民団が在日同胞の唯一の指導団体であり得るのは、それぞれに特性を持つ傘下団体を抱え、在日社会の隅々にその影響力を及ぼせるからだ。中でも商工人を束ねる在日韓国商工会議所の存在が大きな比重を占めている。
2,傘下団体は民団の宣言・綱領・規約を順守することが規定されている。即ち、民団と一体となって特性を発揮する戦略的なパートナーなのだ。友好団体はその枠外の、状況によって関係が変化する戦術的パートナーでしかない。「一社」側は、傘下団体を離脱しても友好団体として民団には協力するという。しかし、「一社」側が現実に示したように、組織は人によって変わる。甘言や思いつきで組織関係が維持できるものではない。
3,特定の目的を持った政治組織やいかがわしい宗教団体が民団や傘下団体に浸透すべく虎視眈々とその機会を狙っている。傘下団体であれば、そうした勢力が乗っ取ろうとしても、民団は公然と防衛・保護できる。事実、そのような例があり、民団の直轄によって難を切り抜けた。
4,韓信協の会員信組と民団が友好関係にあるのも韓商が存在しているからだ。信組は日本の法律に規制されていても、在日商工人に支えられているために民族金融機関として機能でき、民団との関係も安定的に維持できる。東京韓商設立時の三者一体(民団・商工会・信組の大結合)の精神を生かせるのだ。
韓商が傘下団体を離脱すればそうした構造は崩れる。民団と韓商連の有機的で強固な関係は、民団と在日同胞の将来においてますますその重要性を増す。
私たちには、▽韓国発展への貢献と南北統一▽在日同胞社会の統合▽日本地域社会への寄与▽次世代の育成と組織化▽民団の財政基盤構築など諸課題が山積みである。
多様な課題に対応してこそ
それを追求する基軸になるのが経済活動であるのは論を待たない。まさに民団と韓商は、今後とも表裏一体の活動を展開することが要求されている。一方で、商工人組織は民団の傘下団体を離れては全国組織としての体制を維持することが難しいことにも着眼すべきだ。
根源的な理由を見よう。在日同胞社会には多様な価値観に基づくさまざまな要求がある。私たちに課された多様な要求とはつまり、韓国の発展、南北の統一、在日同胞の権益擁護、地位向上など、身近なものから高度な政治的なものまで多岐にわたる。経済活動のみを切り取り、それを求心力とするには十分と言えない。民団を母体組織とすることで韓商連の求心力も確保されるのである。
民団と韓商連の関係はこのような基本的な補完関係の上に成り立ってきた。商工会議所の名称を使用するようになった20余年前、その是非について様々な論議があり、民団は傘下団体認定を取り消し、新たに商工人組織を結成することも真剣に考えた。しかしこれは、韓商連が傘下団体からの離脱はあり得ないとの結論に至ったため、民団はこれを了解して一件落着となった経緯もある。
実務の多くは民団がになう
20余年前に比べて在日同胞の経済環境は格段に厳しくなっており、韓商連を支える人的、物的資産は細っている。民団を中心に団結してこそ生き残ることができ、離脱(=分裂)すればジリ貧が加速することは明らかであろう。他に、韓商連が傘下団体を離れては存立しにくい現実的な事情を整理しておく。
1,韓商の韓国籍会員はほとんどが自動的に民団の団員である。韓商が民団の傘下団体から不当に離脱するなら、この関係は根底から見直されよう。例えば、傘下団体である韓商に民団はあらゆる利便を提供している。大方の地方韓商は民団の会館内に事務所を構え、実務も民団の事務局が兼務している。傘下団体を離脱するとなればこの関係も解消されるほかない。
2,韓商の収益事業が困難になる。保険業務をはじめ韓商が財政基盤としている収益事業に民団は協賛できない。民団が独自にその収益事業に着手するか、もしくは傘下に新たな商工人組織を立ち上げ委託することになる。
3,物件の所有に関しても物議が生ずる可能性がある。いくつかの大手韓商は独自の物件を所有しているが、もともとはこれも民団の団員たる韓商の会員によって購入された物であり、傘下団体を離脱すればその所有権も争われかねない。
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どうぞ「信条」を大切に
自己矛盾の整理を…継続・同一性を装わず
では、韓商連問題の解決はどのように展望できるのか。結論から言えば、再び統合して単一の組織にすることは不可能に思える。その根拠は、彼ら「一社」側が経済産業省(以下、経産省)との4者面談(10月15日)で次のように発言しているからだ。
「その(民団)規定を変えるべきだ。重要なことは中立性である。我々が中立性を保ち、民主的な運営ができるかどうかが重要だ。傘下団体規定では名称使用許可を得た公的な経済団体として独自運営はできない。実際に不当に『直轄』処分をうけるなど独自運営ができない状況だ」(「一社」の「経済産業省への訪問・面談報告の件」より)。
経産省との面談は、コンプライアンス(法令順守)問題がなければ民団傘下に復帰するとの一応の合意に基づいて実現した。そして、コンプライアンスは内部問題であることが再確認された。それにもかかわらず、いや、だからこそ、「規定を変えるべきだ」との開き直り発言が飛び出したのであろう。
これは「一社」側の欺瞞性を示して余りある。傘下団体規定は民団と傘下団体との関係を公式化し、傘下団体としての地位を保障するものだ。韓商連が設立からすぐに傘下団体認定を建議したのもそのためである。そもそも、民団の規約・規定は誰かの都合で朝令暮改されるものではない。ましてや、不当な行為や分裂策動を合理化するために変えられることはない。一字一句たりとも、である。
「開き直り発言」にある「中立性」「民主的な運営」「独自運営」とは何なのかも検分されるべきだろう。「中立性」発言は、商工会議所法の「商工会議所等は、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として、その事業を行ってはならない」とする第4条2項に依拠したものだ。
ここから逆に、彼らによる一般社団法人の登記強行の真意が見えてくる。つまり、民団から離脱するために、韓商連に法の縛りをかけて欲しいと当局に願いでたものなのである。しかし、それが成功していないことは縷々説明してきたところだ。
「民主的運営」云々にもあいた口がふさがらない。民団の承認を得ない非合法の改悪定款を、意に反するグループを排除するために行使したのは誰なのか。韓商連総会の決議、民団中央委の承認などの手続きを踏みにじって登記を強行したのは誰なのか。「民主」を唱える資格について自問するよう勧めたい。
「独自運営」とは、民団に束縛されたくないという意味で用いている。だが、そこには「独自性」と「中立性」は矛盾しやすいとの一般的な概念解釈の次元を超えた大きな自己矛盾がある。
民団は在日同胞に基礎を置く生活者団体として韓国にも日本にも是々非々の姿勢で臨んできた。韓日間で利害が対立する場合、どっちつかずの中立になるのではなく、双方と深くかかわる在日同胞の利益をあくまで優先する。傘下団体も例外ではない。
「一社」も、「在日韓国」を冠にしている以上、そのような立場を放棄するわけにはいくまい。なぜなら、在日韓国人であれば団員と商工人との利害はほとんど一致するからだ。言い換えよう。「一社」にモラルがあるとすれば、民団ともつながる共同利益を追求せざるを得ず、民団の枠外に飛び出す意味が自動的に消滅するほかないのだ。
もちろん、在日韓国民主統一連合(韓統連)のように、「在日韓国」を戴きながら北韓独裁に追従する組織もないわけではない。でもまさか、「一社」がその種の志向にあるわけではなかろう。
「独自運営」を堂々と貫いて
いずれにせよ、「一社」側に民団の傘下団体に復帰する意志が見えない。もっとも、戻りたくともまともには戻りようがないだろう。現に傘下団体たる韓商連は存在しているのだから。戻るとすれば個人単位になる以外にない。
改めて強調する。韓商連は民団と韓商が二人三脚で結成して50余年、在日韓国商工会議所の名称になってからも20余年、「一社」が今回の事態を引き起こすまでは何ら問題もなく齢を重ね、民団の重要な一角を構成する金看板となってきた。「一社」側はこの金看板を突然、しかもこっそりと質入れし、韓商連という実体をも質流れのようにしてごっそり持ち出そうとしてきたのだ。
しかし、見方を変えよう。「一社」側の言い分をとことん善意に解釈すれば、これまでの韓商連とはかなり違う事業を展開したいとの思いが強くあるのかも知れない。であれば、「独自運営」の道を堂々と歩むのが道理である。現に、団員らも参加する独自の理念・信条を持った経済人団体は少なからず存在する。
そうなることを大いに期待したい。ただ、「一社」は民団傘下にあった団体としての継続性、同一性はないこと、有志が新たに結成した組織であることを内外に宣言しなければならない。これが絶対的な前提条件になる。
(2013.11.6 民団新聞)