「今の自分」が見える
ルーツ100年 学びの場
在日同胞社会の念願であった在日韓人歴史資料館(東京・港区)が開館して、今月24日で8周年を迎えました。資料館は、在日コリアンに関する各種資料を収集・整理し、それらを展示・公開することを通じて、在日の歴史を後世に伝えていくためにさまざまな活動に取り組んできました。
「在日100年」を期してスタートした資料館は、常設展示を中心に在日の歴史と文化を紹介してきました。その内容は、日本へ渡航した事情、関東大震災時の受難、強制連行と皇国臣民化教育の強要などの植民地期の歴史をはじめ、解放後の帰国と残留、民族教育のはじまり、差別撤廃と人権擁護運動、各界で活躍する同胞たちなど、植民地期から現在に至ります。常設展示に並行して、さまざまなテーマによる小規模の企画展示と地方での特別展も開催してきました。
セミナーや情報発信も
展示のほか、「在日を知る! 日本を知る! 歴史を知る!」をテーマに毎月「土曜セミナー」を開催しています。各分野で活躍する講師によるセミナーは、現在まで68回を数えました。
図書・映像資料室では、在日関係の各種図書、自叙伝、論文、雑誌、パンフレット、映像などを通じて在日100年の歴史をより深く学べることができます。なお、気軽に在日の歴史と文化に触れるよう、ホームページでも情報を発信しています。
これらの活動を通して、同胞たちは自らの生活と在日の歴史を重ね合わせて次世代に伝えていく大切さを感じることができると思います。また多くの日本人は在日コリアンの歴史に触れることにより、日本の社会の中ではなかなか見えにくい「在日」の存在を知り理解を深めていくとともに、隣国との関係を考えるきっかけになっているようです。
開館以来8年間、多くの在日同胞と日本人が見学に訪れて、8年間の入館者数は2万7000人に上ります。そして韓国からも多くの関心が寄せられ、訪問者も増えています。資料館にはこれからも、多くの方々に足を運んでいただきたいと思います。皆さまのご来館をお待ちしています。
展示室に再現されたチェサ台と屏風 |
解放直後に始まった民族学校(千葉県)
開館5周年を記念して「力道山まつり」も開かれた
展示室には昔のオンドル部屋が再現されている
ソウル特別展「列島の中のアリラン」の会場で
創氏改名を強要され本名を日本名に変えられた東京の小学生の通信簿
1950年代の家族写真(岩手県)
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同胞の支援を糧に充実期す
在日韓人歴史資料館 理事長 鄭進
在日韓人歴史資料館が開設して8年を迎えました。在日の歴史を後世に遺したいという1世の思いと、その歴史を3世、4世に伝えていきたいという2世の志が大きな力になって資料館の開設へとつながりました。当時、民団中央本部の副団長をしていた私も開設にあたり微力ながら協力させていただきました。
開館式の時、「在日同胞の歴史資料館がやっとできた」と支援者や参加者たちとともに喜んだ情景がまるで昨日のことのように思い浮かびます。今日に至るまで資料館に関心を寄せ協力してくださった民団組織と多くの同胞の皆さまに、資料館を代表して心からお礼を申し上げる次第です。
在日には100年以上の歴史があります。2005年の開館以来、資料館は常設展示をはじめ、企画展や地方特別展などの様々な企画を通して在日同胞の歴史を伝えることができました。昨年のソウル展には16万人を超える市民が来館しました。在日韓人歴史資料館は同胞社会に大いに貢献してきたと自負しています。
在日同胞が苦難の中でも誇りを持って歩んできた道のりを後世に遺し、伝えていくためには当資料館の存在はなくてはならず、なおその役割を高めなければなりません。そのためには資料館の安定的な運営を築くことが大切なことであり、それは理事会の務めだと思います。
開設にあたり民団が同胞たちの力を一つに集め推進したように、資料館の更なる発展のためには今後も民団組織及び多くの同胞たちの関心と温かいご支援が必要です。私は資料館運営の安定に向けあらゆる努力を惜しまないつもりです。皆さま方の変わらぬご支援とご協力をお願い申し上げます。
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歴史に涙して、感性を磨こう
在日韓人歴史資料館 館長 姜徳相
人の生活道具は時代を語る生き証人ほど雄弁です。なんの変哲もない家族写真も往事茫々の過去を現在によみがえらせてくれます。各種の証明書も問わず語りにその社会が何を証明し、何を監視したのか、を物語っています。
渡航証明書を例にあげれば文字がすべて赤インクで書かれています。さて、赤インクの意味するものはなにか、それは差別・偏見・警戒・監視だと思います。苦難の歴史の始まりともいえます。
資料館に展示しているほとんどのものは、在日同胞の寄進によるものです。資料の一つひとつは、寄進してくださった同胞一人ひとりの歴史を語っています。
本名を消された小学生の通信簿から名前を変えられた子供の戸惑いの顔が浮かびます。飴売りのハサミからは厳しい生活のなかでも愉快に振る舞うお父さんのリズムが聞こえます。祖父のアルバムから解放を迎えた同胞たちの希望に満ちた雰囲気が伝わります。
若い世代にとって資料館に展示しているものすべてが祖父母時代の歴史証明であり、一つひとつが、じぶんを、ルーツを知る歴史書であります。
資料館は祖父母の時代を思い涙する感性を磨く場であります。展示を30分見るだけで祖父母の自叙伝を、在日の歴史書を一冊読んだと言えるでしょう。
日本全国にこれだけ在日同胞の資料が集まっているのはここ、在日韓人歴史資料館しかありません。開館以来8年間、全国の同胞たちの関心と協力があり充実した展示品をもった資料館に成長しました。いまや資料館は同胞社会の歴史を伝える中核的役割を果たしているといえるでしょう。
これからも資料館はどこかに埋もれているはずの資料を発掘し、歴史をより深く伝えて行こうと思います。資料館開館10周年に向けて、同胞社会がさらなる関心と期待をよせて下さいますよう、心よりお願い申し上げます。
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8年間の歩み
05年11月24日 在日韓人歴史資料館、東京港区に開設。
06年2月 初めての企画展「2・8宣言から3・1独立運動へ」開催。
3月 「土曜セミナー」開始。(毎月第1土曜日)
07年5月 第2回企画展「1世たちの戦争‐韓国・朝鮮人元BC級戦犯者問題」開催。
6月 常設展示室リニューアルオープン。
08年1月 第3回企画展 連続写真展「在日・日本で老いて」開催。
7月 第4回企画展 「金鶴泳を知っていますか」開催。
9月 『大阪特別展』開催。(大阪人権博物館)
12月 図録『写真で見る在日コリアンの100年』発行。
09年9月 第5回企画展「差別と戦った詩人、画家、評論家‐呉林俊展」開催。
12月 『名古屋特別展』開催。(名古屋市博物館)
10年4月 企画展示室開設。
5月 第6回企画展「1円訴訟‐名前はチォエチャンホァ」開催。
9月 第7回企画展「関東大震災時の朝鮮人虐殺と国家・民衆」開催。
10月 「韓国併合」100年・資料館開設5周年記念シンポジウム(大阪)。「在日コリアンの未来予想図」開催。(大阪国際会議場)
11月 「韓国併合」100年・資料館開設5周年記念シンポジウム(東京)。「韓国強制併合100年、韓日歴史認識の違い」開催。(YMCAアジア青少年センター)。▽『福岡特別展』開催。(福岡市博物館)
11年10月 第8回企画展「林えいだい写真展 軍艦島‐朝鮮人強制連行の記憶」開催。
12年8月 ソウル特別展『列島の中のアリラン』(ソウル歴史博物館)
13年8月 第9回企画展「関東大震災から90年、清算されない過去‐写真・絵・本からみる朝鮮人虐殺」開催(12月28日まで)。
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資料提供のお願い
貴重な資料があなたのそばに眠っていませんか?
当館では在日100年の歴史を語る、あらゆる史資料を探しています。
親が大切に使っていた生活用品、民族学校で使われていた教科書や生徒の文集・画集・写真、焼肉店の昔のメニュー表、くず鉄商で使った道具、思い出の家族写真、在日に関する図書・自叙伝・論文・ミニコミ誌・映像、各種集会やイベントのチラシやパンフレットなど……。ぜひ情報をお寄せくださいますようお願いいたします。
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会員を募集しています
在日韓人歴史資料館では、館の運営・維持、資料収集や展示の拡充をサポートしてくださる会員を募集しています。当館の趣旨に賛同していただける方であれば、どなたでも入会できます。
皆さまの温かいご支援、ご協力をいただきますようお願い申し上げます。
個人の年会費は1口3000円(70歳以上と学生は2000円)。賛助会員(企業・団体等)の年会費は1口3万円です。会員の特典は展示室の入館料は無料、所蔵図書の貸し出し、「土曜セミナー」の参加費割引などです。
入会する場合は窓口、電話、メールでお申し込みください。郵便振込取扱票を送付いたします。
(2013.11.27 民団新聞)