韓国と日本の関係は冷え込んだまま越年しようとしている。切っても切れない両国なのに、やるせない思いの在日同胞も多いはず。ところで、季節は秋。であれば、読書に浸るのも悪くはない。そこで今回、韓日関係を考える上で興味深い著作を紹介する。政治に限らず古代史や人権、さかなの交流を扱った、いわば大通りものから路地裏ものまでの6冊だ。韓日関係は多様な側面から成り立っている。その一端に触れることで、視野を広げて見よう。
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世界史の中の近代日韓関係
「相互理解」への一助に
韓日関係が冷え込み、日本の週刊誌には「韓国を黙らせる方法」「韓国の『急所』を突く!」などといった刺激的なタイトルが続き、一部の〞嫌韓〟風潮を煽っている。関係修復の入り口が見えない中、経済関係や民間交流にも少なからぬ影響が及びつつある。
日本の韓国支配終焉(1945年)からすると約70年になる。世代も交代し、日本において植民地支配の時代を知る人はほとんどいない。本書は、過去の歴史を知ることで、今後の相互理解の一助になればとの願いを込め、19世紀なかばから「日本の朝鮮統治の終焉と南北分断」までの韓国をめぐる国際関係の展開を日本との関係を中心に概観したもの。
著者(上智大学文学部史学科教授)は「過去」は「現在の日本と朝鮮半島との関係において過ぎ去ったものではなく、それどころか『現在』に多大な影響を及ぼしている」と指摘、「そのようなことを常に意識しながら、『過去』が『現在』といかに結びついているのかを示すために、本書全体および個別の内容において執筆した」と明らかにしている。
本書は「日本と朝鮮半島のあいだの現在を正しく知り、未来を正しく予測するためにも歴史を学ぶことの重要性」を強調してやまない。特に若い世代に、じっくり読んでほしい一冊だ。
長田彰文著
慶應義塾大学出版会(2400円+税)
℡03(3451)0931
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国のかたちをつくったのは誰か渡来の古代史
日本書紀の史観に危機感
本書は、古代史の権威である著者による「渡来人と渡来文化」の集大成となる。
序章では、65年6月に出版した『帰化人』(中公新書)の概要に触れる。この本を出すまで、「帰化人」という用語は、なんの疑問もなしに使われていた。そこへ一石を投じた。
「帰化」という用語は「内帰欽化」の中華思想の産物であり、渡来人の入国を意味する「渡来」と「帰化」の語を明確に区分した。これに対して、不当であるという批判や脅迫も受けたと綴っている。
近年の発掘調査の成果も踏まえ、渡来人たちの日本への影響などについて説明する。第2章では、古代の日本における渡来文化の一翼を担う道教の信仰が、韓半島における道教と深い関わりを有していたことを代表的な事例で示す。
日本の政治や経済、技術、芸能に貢献し、仏教、日本の神々の世界にも軽視できない寄与をするなど、日本の歴史と文化の発展に深く関わってきた渡来人。だが、『日本書紀』ではすでに自らを権威づけるべく、渡来人を日本版中華思想にもとづいて「帰化」とみなし、軽視しようとしたことが分かる。
「『日本書紀』的「帰化」人史観のゆがみをただすことは、今日の善隣友好の課題にかかわっていることを痛感する」と著者は危機感を持つ。
上田正昭著
角川選書
(1800円+税)
℡03(5215)7815
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在日外国人(第三版)法の壁、心の溝
「共に生きる」を考える入門書
在日同胞の人権をテーマとした集会などで田中宏さんの講演を聴く機会が多い。いつも、なにがしかの発見があるからだ。田中さんは裏付けとなるデータを用意して、問題の核心に鋭く切り込んでいく。この間、モノの見方を根底からひっくり返されたことは決して珍しくない。
本書を手に取る読者も同じ経験を味わうことだろう。密度が非常に濃いため、読者は否応なく立ち止まり、考えながらじっくり読み進むことになる。ただし、その見返りとして確かな読後感が保証できる。
取り上げたテーマは在韓被爆者、日立就職差別裁判、指紋押捺撤廃、戦争犠牲者援護法など、テーマも年代も幅広い。田中さんはこの間、当事者とともに運動の第一線に立ち、これら「法の壁、心の溝」に対して闘いを挑んできた。この徹底的な現場主義こそが著者の真骨頂といえる。
援護法から置き去りにされた戦傷軍属に対する戦後補償運動では共同代表として裁判闘争に臨み、最後は特別立法を勝ち取った。地方公務員国籍要件撤廃運動では、法律の条文がないところで在日外国人を排除してきた心の溝を一つひとつ取り除いてきた。
初版から10数年。改訂を重ねてきた本書は、在日外国人問題を考える第一級の入門書として充実しており、いまも古さを感じさせない。
田中宏著
岩波新書
(820円+税)
℡03(5210)4000
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歴史認識を問い直す 靖国、慰安婦、領土問題
政治的和解へ真摯な提言
本書は、昨年に繰り広げられた領土問題についての日本の外交失敗、問題点を検討し、どう対応すべきか、そして中・長期の政策目標をどうすべきかを検討。さらに「尖閣」「竹島(独島)」問題がこじれた背景にある中国と韓国との歴史問題の深刻さ・所在について、考えてきたことを土台に解決策を探る。
独島問題については「究極の課題は、竹島という日韓の間に刺さった棘を、お互いのプライドを傷つけない形でうまく抜くことができるかにかかっている。そのために必須なのは、日韓が相手の国を信用できる国と思えるかいなかということ」と表明、真摯な対話を多重的に行い、独島を平和と協力の島に活用する「竹島共存の知恵」の生まれることを期待する。
慰安婦問題については、「『アジア女性基金』の延長上に新しい制度をつくる。日本政府は道義的観点から謝罪と償いを行う。2007年の最高裁判決で日本の法廷では慰安婦問題を有罪にしないという判例がでている。日本政府は、今度は、政府の予算を使って償い金を払うことができるはずである。韓国側には、日本の戦後の法的秩序自体を全壊させかねない『法的責任の追及』だけは遠慮していただく。これをもって、日韓間の政治的和解の基礎をつくることである」と強調。韓日和解に向けた真摯な提言だ。
東郷和彦著
角川書店
(781円+税)
℡03(3238)8555
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脊梁山脈
木地師源流に渡来人重ね
敗戦後、上海から復員して故郷に向かう列車の中で、主人公の矢田部信幸は同じ復員兵の小椋康造に助けられた。敗戦下の日本で生きる意味を見いだそうとあがく信幸は、山へ戻った康造の消息を求め、近江や信州、東北の木地師(きじし)の地を巡りながら、その作品や暮らしを図録にしようと決心する。
木地師は、轆轤(ろくろ)を回して木形子(こけし)や器などの木工品を製造する職人で、良材を求めて山から山へ漂泊した。その源流を調査する過程で、日本文化の深層に触れ、古代史の新たな真実に踏み込んでいく。
奈良時代、法隆寺や東大寺など10大寺に10万基ずつ寄進したとされる「百万塔」。轆轤挽きによる三重の小塔で、中には印刷された陀羅尼経が収められた。わずか5年半の間に百万基を造った工人集団と高度な印刷技術。渡来人の存在を抜きにしては語れない。
木地師の成り立ちに、渡来系秦氏との関わりに着目する。秦氏は朝倉宮のそばに貢物を納める大蔵を建てたことで、「蔵・倉・椋」の字が一族を表す代名詞となったからだ。小椋の姓とも関連する。
タイトルの脊梁山脈は、背骨に相当するような地域の山々を指す。小説ながら、国や民族という根源的なテーマに迫った。最近の韓日両国の現状を見るにつけ、本書の提起した問題は今日に通ずる。
乙川優三郎著
新潮社
(1700円+税)
℡03(3266)5111
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ハモの旅、メンタイの夢 日韓さかな交流史
「無主の海」交流史を追跡
京都の夏の風物詩・高級ハモは韓国から、韓国魚の代表・メンタイは日本からそれぞれ輸入されている。こうした事実を、どれほどの人が知っているだろうか。
「日韓さかな交流史」と副題にあるとおり、知られざる歴史や現在に照明をあてた。下関と釜山を往来する活魚車に乗りこみながら、魚のルートを追っていく。聞き取りなど旺盛な取材力に引き込まれる。
両国の主な取引品目を見ると、韓国からは1,カツオ・マグロ2,活魚3,アワビ4,カニ調製品5,ワカメ。日本からは1,スケトウダラ2,タイ3,サバ4,ホタテ貝となっている。東日本大震災前には、三陸沖のホヤが韓国へかなり輸出されていた。
日本からの輸入魚1位が、韓国人の生活に深く浸透し、祭祀などに欠かせないメンタイ(スケトウダラ)である点は驚きだ。その由来についても触れている。
さらに、日本植民地時代の魚類研究交流、韓国戦争後の釜山チャガルチ市場の発展史まで追求しており、貴重な資料といえよう。
年々、激しさを増す海洋生物資源の開発競争、それと関連した領有権争いなどは、「無主の海」という公共性への祈りを無視し、魚たちとともに歩んだ豊かな交流を破壊するものだ、との指摘にうなずかせられる。
竹国友康著
岩波書店
(2000円+税)
℡03(5210)4000
(2013.11.27 民団新聞)