苦難の時代を乗り越えて多文化共生の社会めざす |
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在日同胞社会の多大なご協力のもとに開館した在日韓人歴史資料館は、今年15周年を迎えます。 1905年、韓国と日本を結ぶ関釜連絡船の就航とともに始まった在日コリアンの歴史は既に100年を超え、ここ20~30年の間は在日1世の時代から2~3世、さらに4世以降へと世代交代が進んでいます。資料館は、在日に関する各種資料を収集・整理し、それらを展示・公開することを通じて、これまで在日が歩んできた道のりが風化しないよう、後世に伝えていくことを目的としています。 資料館は個人の思想・信条や所属団体、あるいは国籍の如何にとらわれず、あくまでも客観的な視点から在日の歴史を跡づける資料を収集し展示すること、すなわち史料中心の立場をとるという基本理念に基づいて出発しました。世界各地で使われている「韓人」という名称を館名に取り入れたのも、そうした設立時の趣旨にあわせたものです。 |
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■常設展示・企画展示 |
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100年超す歴史網羅して展示 |
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大阪築港に上陸する朝鮮の人々 | |
資料館が開館された2005年は、日本の朝鮮植民地支配が事実上始まったといわれる第二次韓日協約(乙巳条約)が締結された1905年から100年にあたる年でもあります。日本の朝鮮植民地支配は、在日コリアンの歴史を語る上で欠かせないものです。 常設展示は、関釜連絡船の就航から始まった日本への渡航、2・8独立宣言と社会運動、強制連行、関東大震災時の受難、皇国臣民化教育の強要などの植民地期の歴史をはじめ、解放後の帰国と日本に残留した同胞たちの事情、民族教育のはじまり、解放後も続く日本の差別・弾圧、それに対抗して行われた人権運動、各界で活躍する同胞たちなど、植民地期から現在に至るまでの在日の歴史を網羅しています。 また、常設展示に並行する形で、様々なテーマの企画展示を18回にわたって開催しました。常設展示にはないテーマを取り上げたり、常設展示にあるテーマでも一歩踏み込んだ内容を取り上げたりするなど、常設展示との相互補完を図っています。 |
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解放1周年を迎えた福井県の同胞のパレード | |
関釜連絡船の乗船記念品 | 朝鮮人管理組織である協和会の会員章 |
在日韓国青年会と婦人会による外国人登録法改正要求の大衆行動(1984年10月) | |
■図書・映像資料室 |
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1万8000冊を収蔵、映像も1000本以上 |
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図書・映像資料室は、在日コリアンに関する歴史、文化、民族教育、芸術、文学、個人伝記、自叙伝や韓日関係に関する書籍のほか、雑誌、パンフレット、ミニコミ誌、論文集など約1万8000冊を収蔵しており、在日に関する専門図書室として特化しています。 また、在日や韓国文化を題材にした映画やドラマ、ドキュメンタリー、記録映像などの映像資料は1千本以上所蔵しています。 特に1980年代~90年代にかけて制作された在日に関するテレビ・ドキュメンタリーは、他ではなかなか視聴することができないものです。図書・映像資料室は誰でも自由に利用することができ、在日100年の歴史をより深く学べる場となっています。 |
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(左)開館10周年記念「呉炳学望百記念展 海峡をつなぐ民族の色」ポスター (右)第17回企画展「2・8独立運動と3・1運動」ポスタ |
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■土曜セミナー・シンポジウム |
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通算125回開催、参加者5600人 |
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資料館開館以来、「在日を知る!日本を知る!歴史を知る!」をテーマに、毎月第1土曜日に「土曜セミナー」を開催しており、開催回数は125回、参加者は5600人にのぼります。 在日の歴史と文化をはじめ、古代から現在に至る日韓関係の歴史など、様々なテーマを取り上げています。講演の他にも上映会、フィールドワーク、ライブコンサート、舞踊公演など様々な形で開催してきました。 土曜セミナーのほか、複数の講師を招聘してシンポジウムを開催し一つのテーマについて多角的な視点から講演していただく場も設けています。 土曜セミナー100回記念シンポジウム「在日韓人歴史資料館のいま、そしてこれから」、「朴慶植没後20周年記念シンポジウム」、2・8独立宣言及び3・1独立運動100周年記念シンポジウム「東アジアにおける2・8宣言の意義」などを開催しました。 土曜セミナーとシンポジウムは、講演者と傍聴者が分け隔てなく意見を交換する、市民との交流の場になっています。 |
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第89回土曜セミナー「侵略と植民地支配責任から見た安倍談話」 (講師・愼蒼宇氏) |
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朴慶植没後20周年記念シンポジウム | |
■特別展 |
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ソウル特別展、大きな反響 |
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首都圏以外の地域における地方巡回展として、「大阪特別展」(2008年、大阪人権博物館)、「名古屋特別展」(2009年、名古屋市立博物館)、「福岡特別展」(2010年、福岡市立博物館)を開催しました。この巡回展では資料館の常設展示をまるごと再現し各地域に在日の歴史と文化を伝えるという大きな役割を果たしました。 また、2012年には韓国で「ソウル特別展…列島の中のアリラン」(ソウル歴史博物館、東北亜歴史財団共催)を開催し、2カ月の開催期間中に16万人を超える観覧者を迎え、大きな反響を得ることができました。 |
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ソウル特別展「列島の中のアリラン」(2012年8月10日) | |
大阪特別展「在日100年の歴史を後世へ」 | |
■出版物とホームページ |
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3カ国語で在日「100年のあかし」を紹介 |
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展示や講演の他、手元に置いていつでも読めるように出版物をいくつか刊行しています。 | |
◆在日韓人歴史資料館冊子『100年のあかし』 資料館の開館とともに発行した冊子『100年のあかし』は、2010年に最初の改訂を経て、今年7月に2度目の改訂版が完成しました。同胞の皆様からの貴重な寄贈資料や近年の年表を新たに追加することで在日100年の歴史を凝縮した一冊となっています。 また、時期を同じくして韓国語版冊子『100年の歴史』を発行し、去年発行された英語版冊子『100Years of History』とともに、日本語話者以外の方々にも在日の歴史を伝えるように心がけています。これらの冊子は資料館で一般販売するほか、海外の韓国学・日本学研究施設にも配布しています。 |
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◆図録『写真で見る在日コリアンの100年』 2008年12月に発行した資料館の図録『写真で見る在日コリアンの100年』(2010年12月に2刷発行)は、日本への渡航から日本での生活、関東大震災での朝鮮人虐殺、強制連行、皇国臣民化教育、そして解放と帰国、新たな在日の始まりと差別撤廃運動など、700点に及ぶ豊富な写真資料を通じて、在日100年の歴史を総覧した1冊です。 |
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◆講演録『朝鮮近現代史から日本を問う』Ⅰ・Ⅱ |
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これまで開催された土曜セミナーの中からいくつかのテーマを選び、講演録「朝鮮近現代史から日本を問う」Ⅰ・Ⅱを発行しています(Ⅰは好評につき完売)。 安重根の東洋平和論、韓日関係からみた関東大震災の朝鮮人虐殺、近代日本人のアジア観、在日朝鮮人と治安維持法など、多岐にわたるテーマから近現代史の全体像を考えさせる内容となっています。 |
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◆『東アジアのなかの二・八独立宣言‐若者たちの出会いと夢』 また、2・8独立宣言、3・1独立運動100周年を記念して2019年2月に開催されたシンポジウム「東アジアにおける2・8独立宣言の意義」の講演内容をまとめ、『東アジアのなかの二・八独立宣言‐若者たちの出会いと夢』を今年7月に刊行しました。 2・8独立運動の意義を東アジアという空間に位置づけることで、今日の課題に向き合いながら2・8独立宣言の再照明を試みました。 |
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資料館のホームページでは日本語・韓国語・英語で展示内容の概説とともに展示品の中の一部をピックアップして解説しています。 2019年には英語版ホームページを新設し、韓国と日本にとどまらず、広く世界に向けて情報を発信しています。 |
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■むすび |
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在日の歴史と文化への理解を拡大へ |
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こうした様々な活動を通して、同胞たちは自らの生活と在日の歴史を重ね合わせて、次世代に在日の歴史を伝えていく大切さを感じることが出来ることでしょう。 また、多くの日本の市民は在日の歴史に触れることによって、日本の社会の中ではなかなか見えにくい「在日」を知り、理解を深めていくとともに、隣国との関係を考えるきっかけになると思います。 グローバリゼーションが進むにつれ、日本が多文化社会に変貌していくことは、避けられない歴史の流れと言えます。 ならば、最も身近で付き合いの長い「同伴者」でありながらも、異質な「他者」と見なされて不当な処遇に苦しんできた在日の歴史、社会、文化に向き合い、共に生きる道を模索することこそが、日本が健全な多文化社会へと向かうための第一歩と言えるのではないでしょうか。資料館は、そうした共生社会を作っていく役割を積極的に担うことを願っています。 開館から15年間、国と地域を問わず多くの方々が見学に訪れ、これまでの入館者数は約4万5000人、特別展を含むと20万人以上にのぼります。資料館はこれからも多くの方々に足を運んでいただき、在日の歴史と文化への理解を日本社会に、本国に、そして世界に広めていく所存です。皆様のご来館をお待ちしています。 |
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資料館を訪れた全米日系人博物館の一行 | |
同胞の過去をたどり未来を展望 |
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在日韓人歴史資料館 理事長 許孟道 在日の歴史を後世に遺したいという1世の切実な想いと、その歴史を3世・4世以降の世代に伝えていきたいという2世の強い意志が原動力となり、2005年11月に開設した在日韓人歴史資料館は、今年で15周年を迎えます。今日に至るまで資料館に多大な関心をお寄せくださり、ご協力してくださった民団組織と多くの同胞の方々に、改めて資料館を代表して心からお礼を申し上げる次第です。 この15年の間、日本全国の同胞から数多くの資料が寄せられ、それらは学術的な整理を経て展示されています。これまで資料館に集められた生活用具、文書、写真、文献、図書、映像資料などは、在日コリアンが苦難の中にもくじけずに、誇りをもって歩んだ道のりを伝える貴重な資料です。 また、日本社会において在日100年の歴史をたどることは、多文化共生社会を実現するために大いに寄与するものでもあります。 資料館は日本社会や本国に、在日の歴史と文化を広めるという大きな役割を果たしてきました。 そして、日本国内や本国のみならず、欧米からの来館者もみられるようになり、韓日2国にとどまらず、国際的にもその認知度を高めつつあり、3回の巡回展(名古屋、大阪、福岡)およびソウルでの特別展(2012年)を含みますと、観覧者は延べ20万人以上にのぼります。 資料館は在日同胞社会の発展と次世代の育成のために、なくてはならない機関です。また韓日関係改善のための知的な拠点としても、今後その役割が益々重要になることは間違いありません。 開館から15年間、資料館という枠を大きく越えて、一般的な博物館に比べても決して引けを取らない、積極的な活動を展開してきました。これからも、現状に安住することなく、さらなる発展を目指していきたいと思います。 現在、在日の世代交代が進行する中で、遺失が懸念される資料を収集することが急務となっています。資料館の展示内容のより一層の充実と拡充を図りつつ、公共性を高めることで日本における社会的地位を高めていく所存です。 これまで取り組んできた様々な活動を生かしながら、かけがえのない在日100年の歴史を後世に残すことは、これからの資料館の課題であり、目標でもあります。その実現のために、今後とも民団組織及び同胞たちの変わらぬご関心とご支援を心からお願い申し上げます。 |
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同胞に支えられ歩み続けた15年 |
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在日韓人歴史資料館 館 長 李成市 在日韓国歴史資料館は開館15年を迎えます。この間、日本全国から100年以上におよぶ在日の歴史にかかわる生活道具をはじめ、同胞社会の歴史を伝える様々な資料が寄贈され、資料館に展示されています。資料の一つひとつは寄贈してくださった同胞一人ひとりの歴史を物語っています。それらは寄贈者の日々の喜怒哀楽の生活を彷彿とさせてくれます。 資料館は、何世代も積み重ねられてきた同胞の歴史を想起する記憶の場ということができます。祖父母の時代に思いをいたし、現在を知り、未来について考える契機となるはずです。その意味で、資料館は同胞の感性を磨く場でもあります。 同胞の100年の歴史は、差別、偏見、警戒、監視のなかで決して平坦ではありませんでした。そのような中にあっても日本社会のなかで、家族・同胞の絆をたよりに、たくましく生をいとなんできました。 グローバリゼーションが加速化するなかで、本国を離れた700万人のコリアンの世界各地での活動が伝えられるようになっています。そうした時代にあって、海外で生きるコリアンの生活史が注目され、国際的な相互の情報交換も始まっています。 近年、海外からの来館者が増えています。それゆえ資料館では、資料館を紹介する冊子『100年のあかし』の英語版を刊行したり、ホームページで日本語、韓国語に加えて、新たに英語で紹介したりするなど、資料館の国際発信にも努めています。 また、韓国の国立博物館や資料館、大学研究所からの問い合わせも多くなり、日本国内の同胞はもとより、国際的にも、在日同胞の歴史を伝える中核的な役割を果たすことを使命の一つと考えております。 さらに、今後の大きな課題として、すでに5世の世代が誕生している時代にふさわしい資料館の未来を展望することがあります。 とりわけ同胞の生活は日本社会に根をはるにつれ、国際的な婚姻も増加の一途をたどっています。日本国籍取得者も少なくありません。国際的な動向からすれば、こうした傾向は不可逆的かも知れません。いまや在日同胞の生活は画一化されておらず、複数の価値から見直さなければならない時期に至っています。 同胞社会が大きな転換期にあることを意識しながら、在日同胞の記憶の場として、こうした時代の変化にも世代間を越えた広い視野で在日社会の歴史を展示していかなければなりません。 資料館は今後も、どこかに埋もれているはずの資料を発掘し、在日の歴史をより広く伝えていくことに引き続き努めていきます。 資料館は、同胞社会に対してはもちろんのこと、日本社会の真の国際化のためにも展示を通じて寄与することを願っています。同胞のみなさんのさらなる関心と期待を寄せてくださいますよう、心よりお願い申し上げます。 |
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あなたのそばに貴重な資料が眠っていませんか? 資料館では在日100年の歴史を語る、あらゆる歴史資料を探しています。 |
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(2020.08.15 民団新聞) |