地域・世代の葛藤 依然
8カ月後に第18代大統領選挙を控え今月11日に実施された第19代国会議員選挙(定数300。地域区246・比例代表54)は、大統領選挙の前哨戦としても注目された。在外国民にとっては初めての国政選挙参加でもあった。左派の統合進歩党と初の全国的な選挙連合を実現した最大野党の民主統合党が、任期末期を迎えた李明博政府の不人気と相まち、「政権審判論」が力を得て圧勝、過半数までには届かなくても院内第1党になるとの見方が強かった。だが、当初100議席も難しいのではないかとみられていた与党セヌリ党が善戦し、単独で過半数を上回る152議席を獲得し勝利した。なにが明暗を分けたのか……。
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辛勝のセヌリ党
22減だが過半数確保…民主党は46増でも〞敗北宣言〟
首都圏では惨敗
与党セヌリ党(朴槿恵非常対策委員長)は、今回の選挙戦に先立ち、相次ぐ不祥事で悪化した党のイメージを刷新するためそれまでの党名「ハンナラ党」を「新しい世の中」を意味するセヌリ党に改名。同時に党の政綱・政策を全面改定し、福祉や雇用、経済民主化を中心軸に据えるなどして李明博政府との差別化に力を傾けた。
選挙公約でも、野党と競うかのように経済民主化と福祉政策の充実・拡大を強調した。選挙戦では「過去との断絶」、「変化と刷新」を強調する一方で「巨大野党牽制論」を唱えて支持を訴えた。
これに対して統合民主党(韓明淑代表)は、院内過半数獲得および12月の大統領選挙を通じての政権奪還のために統合進歩党と「選挙連合」「候補一本化」を実現。盧武鉉政府時代には与党として推進した韓米自由貿易協定(FTA)や済州海軍基地建設に反対、破棄・再交渉を主張するなど、統合進歩党と歩調を合わせた。
だが、選挙戦では福祉公約実現のための財源問題や、北韓のミサイル発射を目前にしながらも対北・安保問題についての論議などはほとんどなく、ネガティブキャンペーンに終始した。
終盤では民間人への不法査察問題で野党が攻勢をかけ、これに対してセヌリ党は、民主統合党金容敏候補の女性・高齢者侮辱・低俗発言をとらえて反攻。国民のひんしゅくを買った金容敏候補を最後まで擁護したことが無党派層の民主統合党への票を少なからず減らしたとされる。
セヌリ党は単独過半数を維持したものの、在籍の174議席より22議席減らした。
地域区での獲得議席を見ると、有権者(約4020万人)の約半数が集まり、全地域区の45・5%(112)を占める首都圏(ソウル=48、仁川=12、京畿道=52)では、43議席しか得られなかった。前回の第18代総選挙ではソウルだけでも40議席を獲得し、首都圏全体では81を数えた。今回のソウルでの獲得議席数は16にすぎなかった。首都圏に限れば敗北だ。
だが、同党の伝統的な地盤である嶺南圏(67。釜山=18、大邱=12、蔚山=6、慶尚北道=15、慶尚南道=16)で64議席を獲得して圧勝。同圏での民主統合党の獲得議席は3(釜山2、慶尚南道1)にすぎなかった。
セヌリ党はまた、前回の総選挙では1議席しか獲得できなかった忠清圏(25。大田=6、世宗=1、忠清北道=8、忠清南道=10)で半数近い12地域を制した。さらに前回3議席だった江原道では定数の9議席をすべて獲得。これにより、比例区での25議席と合わせて、かろうじて単独での過半数議席維持に踏みとどまることができた。まさに辛勝だった。
嶺南圏と湖南圏
一方、民主統合党は、伝統的な地盤である湖南圏(30。光州=8、全羅北道=11、全羅南道=11)では、25議席を確保し、選挙連合した統合進歩党に3議席を譲った。残り2議席は無所属で、セヌリ党は前回と同様に、湖南圏では1議席も得ることができなかった。
民主統合党は、湖南圏での完勝に加えて、民心のバロメーター視される首都圏でもセヌリ党を圧倒した。前回は17にすぎなかった首都圏での議席数を65(ソウル30、仁川6、京畿道29)と約4倍も増やした。選挙連合により統合進歩党も初めて首都圏で4議席(ソウル2、京畿道2)を獲得した。
総数が25に1つ増えた忠清圏では、前回より2議席多い10議席を確保(前回ゼロだった統合進歩党も3議席に)したものの、前回2議席を得た江原道では完敗。
民主統合党は、全体的には比例区の21議席と合わせて、前回の81(地域区66・比例区15)より46議席も多い127議席を獲得した。
だが、第1党にはなれなかった。任期末期を迎えた李明博政府の不人気に加えて政府および与党側の不祥事の連続など、野党有利とされる環境のもとで、初の全国的な選挙連合まで実現させた民主統合党の勝利は、間違いないと考えられていた。6月からの「与小野大」国会で、対「李明博政府・朴槿恵与党」への攻勢を強め、12月の大統領選挙で一挙に政権を奪還するとの戦略だった。
それだけに、第1党になれず、統合進歩党の議席数と合わせても過半数議席に及ばなかったことの衝撃は大きく、韓明淑代表の辞任事態にいたった。
民主統合党と選挙連合した統合進歩党は、目標としていた院内交渉団体構成に必要な20議席にはとどかなかったが、比例区(6)とあわせてこれまで最多の13議席を獲得し、第3党に浮上した。
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60%未達の投票率
勝敗の鍵握る20〜40代…大統領選では10%以上アップ
今回の総選挙での勝敗を左右する大きな要因として、投票率が挙げられていた。また、投票率とも関連して20・30・40代の有権者および無党派層の投票動向が結果を左右するものとして注目された。投票率については、投票率が上がるほど、与党セヌリ党に不利となり、50%台中盤なら与党有利、60%台なら野党有利とされていた。
今回の投票率は54・3%で、歴代総選挙の投票率で最も低かった前回08年の46・1%よりは高かったが、前々回(04年)の60・6%よりは低かった。
若い世代は一般的に野党性向が強いとされている。前回総選挙では20・30代の投票率がそれぞれ28・1%、35・5%と低迷し、与党ハンナラ党(当時)が過半数以上の議席を獲得した。一方、20・30代の投票率がそれぞれ44・7%、56・5%だった前々回総選挙では、野党の「開かれたウリ党」(当時)が過半数を上回り躍進した。
またテレビ放送3社の出口調査によると、昨年10月のソウル市長選挙では、20・30代の若者に加えて40代の66・8%が野党統一候補だった朴元淳現市長を支持し、当選に大きく寄与した。
韓国ギャラップ社が、11日に全国各地の総選挙投票者約1600人を対象に実施した電話調査(携帯電話含む)でも世代間の支持政党の違いが確認された。比例代表を選ぶ政党投票を基準に、セヌリ党、自由先進党など保守政党と、民主統合党、統合進歩党など非保守・左派野党の得票率を比べると、20代は37・8%対56・2%、30代は27・5%対69・6%、40代は36・6%対58・0%で、いずれも野党側が高かった。
これに対し、50代は55・9%対41・7%、60代以上は65・5%対29・9%と、逆に保守政党の方が高くなっている。
ソウルでは、保守政党と非保守・左派野党の政党得票率は20代で31・1%対65・7%、30代は22・2%対76・5%、40代は31・2%対68・7%で、50代は59・6%37・7%、60代以上は74・4%対25・0%と、世代間の差が一層際立っている。
今回の総選挙の投票率は50%台中盤であった。このために、統合民主党の地盤である湖南圏(定数30)よりも、大きな嶺南圏(定数67)を地盤とするセヌリ党は、江原道および忠清圏での巻き返し成功で過半数議席を確保するのにかろうじて成功したともいえる。野党寄りの20・30代がもっと多く投票していれば、総選挙の結果は変わっていたとの見方が支配的だ。
今回の総選挙は8カ月後に控えた大統領選挙の「前哨戦」視されているが、大統領選挙の投票率は通常、総選挙より10%以上高くなる。
12月は大接戦に
李明博現大統領が当選した07年の第17代大統領選挙の投票率は、過去最低の63・0%だった。当時は、現在の野党の支持者たちが、支持候補の敗北を予想して早々に投票を諦めるケースが多かったため、低調な結果に終わったともされている。
今年の大統領選挙は、過去最高531万票という得票差を記録した前回の大統領選挙とは異なり、最終的には与野党候補の一騎打ちによる大接戦になるとみられている。
今回の総選挙でも明らかなようにセヌリ、統合民主の与野2大政党とも圧倒的な支持は得られなかった。与野党の勢力比は5分5分である。
「地域主義」(嶺南圏=セヌリ党、湖南圏=民主統合党)が依然根強い中、ソウルを中心とする首都圏での無党派中間層および20・30・40代の有権者の支持獲得の成否が大統領選挙選の勝敗を大きく左右する。
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地域区候補と政党投票
セヌリ42・8% 民主36・5%
各地域区の候補への投票では、セヌリ党が、民主統合党に比べ全国合計で約116万票多かった。セヌリ党は43・3%の932万4911票、民主統合党は37・9%の815万6045票。だが、選挙連合を行った民主統合党と統合進歩党(6%、129万1306票)の候補の得票数を合わせると944万7351票で、セヌリ党より約12万票多い。ただし両野党を合わせた候補者数のほうがセヌリ党よりも多かった。
比例代表区の政党投票では、保守系と非保守・進歩の得票率はほぼ拮抗している。
セヌリ党42・8%、自由先進党3・23%、ハンナラ党(旧・嶺南新党自由平和党)0・85%、国民の考え0・73%、親朴連合0・63%で、保守系の政党の得票率の合計は48・24%。
これに対し非保守・進歩系政党の得票率は、民主統合党36・5%、統合進歩党10・3%、進歩新党1・13%、創造韓国党0・43%、緑色党0・43%、青年党0・34%、正統民主党0・2%で合わせて49・18%となる。
(2012.4.25 民団新聞)