2014年完工を目指した済州道の民軍複合型観光美港(西帰浦市江汀地区)の建設が進まない。道外から乗り込んで来た過激派による反対運動が苛烈なためだ。済州南岸に基地を置くことは韓国海軍の宿願であり、計画が策定されてから17年、建設地域が確定して5年が過ぎた。東アジアではこの間、海洋権益を巡るアツレキは強まり、その波頭は今後さらに荒れる展望だけに、済州基地の重要性はいっそう高まっている。済州になぜ、海軍基地が必要なのか。その理由を掘り下げてみよう。反対運動の狙いも自ずと明らかになる。
■□
北韓の野欲に楔も…交易路・資源確保に必須
東・西、南方海域守る要衝
生在権かけた戦略上の悲願
済州島近海と中でもその南方海域は、近隣の平和と韓国の海洋主権を守るために、国家の生存権を担保する次元で安定的な管理が必須とされてきた。
北韓からの後方防衛と中国・日本に対する同時牽制に有効なだけでなく、海洋資源の保護と海上輸送路の安全確保にも不可欠だからだ。地政学的に見て済州島はまさに、軍事・経済の両面で戦略的な要衝に位置している。
第1に、東・西に分かれた韓半島海域の中央に位置しているため、有事の際、戦力の両海域への集中・分散を可能にする拠点となる。艦艇の高速化が進んだとはいえ、戦力の展開速度に限界のある海軍にとって、両海域に即時対応できる中央・要(かなめ)に位置する基地は戦略上の悲願と言える。
第2に、済州島近海は韓半島有事の際、陸上戦力の増強とそのための物資輸送など、作戦遂行能力の維持・強化の鍵を握る。蔚山・釜山・鎮海・馬山・光陽・麗水・木浦・群山など、基幹産業の集中する臨海工業地帯、主要港湾への航路帯の中心に位置しているからだ。
韓国は、石油の100%をこの海域を通して輸入しているのをはじめ、輸出入物量の99%超を海上輸送に頼っており、15日間以上、海上封鎖が続けば危機に陥るとされるだけに、制海権は絶対に譲れない。
第3に、離於島(別掲参照)の実効支配の維持に象徴される海洋権益の保全に不可欠なことだ。離於島一帯は、中国西部の工業都市に向かう航路、あるいは韓国の主要交易路でもある。また、地下資源が極めて豊富だ。離於島を含む東シナ海全体の原油埋蔵量は最大1000億バレル、天然ガスは72億トンと推定される。
以上の3点が済州基地に託される軍事・経済上の主な課題と言えよう。ところが現状では、済州島の南方海域や離於島の安全・権益を守ろうとすれば、距離の遠い釜山、鎮海、木浦から出動しなければならない。済州基地はこの決定的な弱点を打開することになる。
水上戦闘力が劣る北韓の主力は、隠密作戦を得意とする潜水艦・艇だ。有事となれば、武装ゲリラを済州島に上陸させての後方攪乱、南方の海上交通路に出没しての戦力・物資の輸送遮断を試みる。そして何よりも、東・西の海域に対する戦力の機動性確保に血眼になるだろう。
済州基地があれば、対潜水艦機動作戦戦力が即刻対応、北韓の意図を挫くことができる。済州海軍基地は、北韓が韓国に対して抱いてきた軍事的野欲を事前に打ち砕く、大きな楔(くさび)となるのだ。
離於島近海の有事も即対応
中国と係争中の離於島問題への対処でも決定的な役割を果たす。西南海域の防衛には木浦第3艦隊以外に大きな海軍基地がない。だが、木浦は水路が狭く、水深が浅いため、1000トン級の艦艇が出入りできる水路は1本のみ。しかも、外洋に出るには1時間を要し、干潮時には機動性がさらに制限される。
離於島まで釜山から出動すれば21時間(481キロ)。中国の拠点(余山島)からは13時間(287キロ)。中国が8時間も早く到達する。済州からは8時間(174キロ)。5時間も早い。済州基地ができれば、離於島近海で突発事態が起きても即刻対応できる。
新機動船団の母港に
海軍は10年2月、韓国の作戦認可区域(AAD)はもちろん、世界のどこにでも迅速に赴き、あらゆる作戦遂行を可能にすべく、第7機動戦団を創設した。
韓国初の多目的機動戦団には、イージス艦・世宗大王を筆頭に4500トン級の韓国型駆逐艦(KDX―Ⅱ)が基本配置される。北方限界線(NLL)はもちろん、独島、離於島までも機動し、対北抑止のほか遠海作戦を展開できる。
しかし、この機動戦団は現在、2個の隷下戦隊に別れ、釜山と鎮海基地に分散配置されているため、教育・訓練や非常態勢の維持に限界がある。その他の基地(東海、平沢、木浦など)は埠頭が飽和状態で、戦団を収容できない。機動戦団戦力を一括収容できる母港としても、済州基地が必要とされているのだ。
済州島には現在、大型艦艇のための埠頭施設がない。済州基地は、済州近海で海難救助や作戦事態が発生すれば、機を逸することなく対応できる。機動戦力に対する軍需支援、教育訓練、将兵休息施設などを持つ基地が不可欠だ。
■□
美観との共存めざす…住民と合意重ね計画・推進
「平和の島」安保あってこそ
済州基地建設反対運動は例えば、日本の歴史に残る1960年代中盤の成田空港建設反対運動とはかなり異質と言っていい。
成田空港の場合は、政府が農民を中心とする地元住民の合意を得るどころか、代替地の準備や事前説明すら怠るなど、猛反発を招く理由があった。三里塚・芝山地区の農民は、旧満蒙開拓団の出身者が主体で、開拓がようやく軌道に乗り始めた時期であったことも大きい。
そこに、ベトナム戦争反対、米帝国主義および佐藤内閣打倒闘争の象徴として、極左過激派と言われた新左翼各派が介入する余地があった。これらの支援を、一部住民は積極的に受け入れ、日本を揺るがすほどの騒擾事態となった。
しかし、済州基地は「基地事業の概要」(別掲)で明らかなように、正当な手続きに則って計画が樹立され、実行段階に入った。
反対勢力の主体である従北団体は、手続き上の「瑕疵(かし)」や住民の「意思」をいつまでも盾として偽装するわけにいかず、政治闘争にシフトして、対話すら拒否している。
飛びかうデマ「米の圧力で」
北韓は済州基地について、《北侵前哨基地、米国のミサイル防衛体系構築の主要対象地域だ》と論評したことがある。反対派のスローガンには、「7大景観を害する海軍基地、ミサイルMD NO」「米帝国主義の対中国海軍基地強力反対」も登場した。基地建設を米国の圧力だとするデマも流している。
従北勢力はこうした虚論を掲げ、済州に基地ができれば「平和の島」のイメージが傷つき、戦時には敵国の打撃目標になり、道民が犠牲になる、などとあたかも住民の側に立っているかのように主張する。
しかし、米国は横須賀基地のほか、済州島に近い佐世保基地と沖縄を基地にしている。米艦艇は、韓米合同訓練時に一時的に寄港しても、長期滞在はしない。
済州基地の本質は、戦争を予防しつつ平和と海洋主権を担保し、海軍艦艇を支援する基地だ。軍事・経済の両面で戦略的な要衝であるだけに、海軍基地が存在しようとしまいと、敵の牽制・制圧の対象となることは避けられない。
平和とは、非武装によってではなく、国家安保の裏付けがあってこそ確保できる。世界的な観光地も例外ではない。米国のハワイ真珠湾、豪州のシドニー、イタリアのナポリ、フランスのツ―ロンなど、世界的な保養地であり美港でありながら、大規模な軍港がある。
阻止にやっ起の北韓
「共和国英雄」の称号を持ち、済州島から2回目の浸透の際、生け捕りになった北韓工作員・金東植氏はインタビュー(『月刊朝鮮』4月号)で、北韓が済州基地の建設阻止に躍起になる理由を2つあげた。
第1点は、平時に対南要員を浸透させる主要ルートを失うか、浸透がより困難になることだ。基地ができれば兵力も増え、警戒も厳重になる。第2点は、済州島を奇襲占領して前進基地を築き、後頭部を打撃する戦略が不可能になることだ。
金氏はまた、反対闘争の様相は小規模から大規模に、経済闘争から政治闘争に、反政府闘争から反米闘争にと、北韓の戦略・戦術通りに展開しているとして、こう指摘している。
済州基地問題は、地域住民との利害関係から全国規模の反政府闘争に転換した。済州基地が「米国の東北アジア戦略に基づくもの」という言説を振りまいて、反米に向かっている。教科書通りだ。北韓が操縦する勢力の介入なしにはあり得ない。
■□
基地造成事業の概要
済州海軍基地造成は95年、国防中期計画に初めて盛り込まれ、96年には金泳三大統領の承認を得た。本格的な推進体制に入ったのは07年。盧武鉉大統領が同年の済州道平和フォーラムで、「武装なくして平和と国家は維持できない」として、基地建設を改めて支持してからのことだ。
この年に実施された世論調査(道民1500人対象)で、54・3%が基地建設に賛成している。また、西帰浦市3地域の誘致候補地のうち、賛成率は江汀56%、和順42・2%、為美36・1%の順だった。江汀地区では計7回にわたる住民説明会を経て、基地を誘致することで合意した。
民軍複合の観光美港の形態にすることに決まったのが08年。総9770億ウォンを投じて、14年完工を目指してきた。これにともなう住民の移住はない。子弟については大学卒業まで、全額が奨学金として授与されるなど、住民には各種恩恵が付与される。
港湾工事・軍人アパート建設などにともなう地域業者の利得は、4109億ウォンと推算されるほか、複合美港の経済効果(軍人消費、雇用創出、観光事業)は年間、926億ウォンに達すると見込まれている。済州道特別法改正案が成立し、海軍基地周辺の発展計画に対する支援根拠も整った。
環境の破壊も極小化されている。例えば、反対勢力は江汀地区の海にある天然記念物の軟サンゴ群落が破壊されると主張してきた。だが、この群落は基地から5キロ離れており、専門家グループの検証によって影響がないと判断された。絶滅危惧種の生物2種については、環境当局と折衝を重ね、捕獲許可を得て、捕獲・移植作業を行ってきた。
候補地の選定、土地の接収・補償、環境・自然保護など、事業推進にともなう法的・行政的手続きは遵守され、関連訴訟でも国側がすべて勝訴している。
「進歩連帯」「平統人(平和と統一を開く人たち)」など従北勢力は全国対策会議を発足させ、工事地域内にテントを設置するなどして不法占拠し、工事を妨害している。工事が進展しない場合、月平均59億8000万ウォンの国家予算が失われる。
■□
離於島はこんな島
離於島は済州島西南の馬羅島から西南149キロにある水中岩礁だ。岩礁の頂上は水面の4・6メートル下にあり、波が高いときだけその姿を現す。水中岩盤は南北1800メートル、東西1400メートル。離於島は国連海洋法条約上では島ではないため、領海もしくは排他的経済水域を形成しない。
だが、韓国にとって極めて重要な存在だ。中国・東南アジア・ヨーロッパへの主要な航路が近いなど、地政学的に貴重な位置にあるだけでなく、南部海域のモニタリング、地球環境問題、海上交通安全に対する核心的な資料を得ることができる。
韓国は1951年、国土画定事業の一環として岩礁を確認、「大韓民国領土離於島」と刻印した銅板を沈めた。87年には、海運港湾庁が灯浮標(船舶の航海にとって危険な所であることを知らせる無人灯台と同じ役割を果たす航路表示浮標)を設置し、国際社会に公表した。これは離於島最初の構造物だ。
海洋水産部は海洋研究・気象観測・漁業活動支援などのため、95年から海底地形把握と潮流観測など現場調査を実施し、03年6月、離於島頂上から南に約700メートルの地点に海洋科学基地を設置した。韓国が実効的に占有している。
中国は韓中間の排他的経済水域(EEZ)の境界を確定していない状況で、海洋基地建設は不当と主張する。韓国は離於島が我が国にはるかに近く、排他的経済水域を確定するとき中間線原則に基づけば、韓国の管轄水域内になることは明らかであり、基地建設は可能との立場だ。
中国は99年から02年まで3次にわたって調査活動を行い、06年には離於島の名称を「蘇巌礁」と名付け、「韓国の一方的な行動は法律的効力がない」と主張。
10年4月、韓国の貨物船が離於島海洋科学基地から北西580メートル地点で座礁し、11年4月からオランダの引き揚げ専門業者が作業した際、この海域は中国のEEZであり、許可がない引き揚げを中止せよ、と要求したこともある。
(2012.5.23 民団新聞)